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← 久遠寺 凜 の日記

出しては戻して

内ポケットから出して、
また戻した。

何回やったか数えてない。

昼のうちに四回書いて、
四回とも消した。

書けるやつは全部あたりさわりが無くて、
あたりさわりの無いのを読ませて何になるのよ、
と思ったら、書くべきやつはもう決まっているということになる。

五回目で書いた。

書いたら手が震えたのが自分でも意味わかんない。

たった一行なのに。

折らずに上着の内ポケットに入れた。

夕食のあと、ラウンジで渡す。

そう決めたから、
もう考えない——つもりだった。

夕食は精進料理だった。

煮しめの小鉢は、
何も言わずに千鶴のほうへ押した。

昨日そうすると言ったから、
そうしただけ。

千鶴は箸を置いたまま椀の縁を見ていたけど、
訊かなかった。

訊いたら昨日の続きになる。

あとで、祖母のとは違いました、
と言いに来た。

違ったならそれでいいでしょ、
同じだったら困るじゃない、
と返したら、困ります、
と本人が認めた。

食堂のが祖母のに届かないままのほうがいいと思っていた、
それが初めて言葉になった、
とも言っていた。

人のことは、こんなに簡単に出てくるのに。

ラウンジには、ルナが紙を開いて置いてあった。

あたしの一行を入れる余白を空けて、
向きまで合わせて。

催促はされなかった。

されないほうが重い。

出しては戻して、
二十二時になった。

皿は押せて、紙は出せない。

押すのは渡すだけで、
こっちは中身を読まれるからでしょ。

分かってる。

分かってて、まだ内ポケットに入ってる。

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