返ってこないほう
渡した。
食堂で、出ていこうとしていたところを呼び止めて。
昨日じゅう、と言われていたのに、
今日になっていた。
過ぎたぶん、渡しにくくなっていた。
遅らせたのはあたしなんだから、
誰のせいでもない。
その場で読め、感想は言うな、
一文字も、と言った。
読んだ、とだけ返ってきた。
一日遅れたことにも触れられなかった。
オレも一日遅れて当たったばかりだ、
って。
返してもらった。
紙は上着に戻ってきた。
それなのに、渡す前より落ち着かない。
返ってきたのは紙で、
読まれたことのほうは返ってこない。
それが欲しくて渡したはずなのに、
手に入ったら手のほうが行き先を失っている。
テラスでは真ん中寄りの椅子に座った。
端が空いていた。
いつもならそっち。
でも、中庭で真ん中に来いって言ったのはあたしなんだから、
自分が端に座っていたら格好がつかない。
二日も経ってから守った。
夜、ラウンジで千鶴が、
頼まれてはいないけど自分が飲みたいので淹れる、
要る人は言え、と言った。
要る、と答えていた。
断る理由を探す前に、
口のほうが先に出た。
昨日は用意されていなくて、
手が動かなかった。
今日は訊かれた。
訊かれる形なら動けるらしい。
そこから先はまだ。