寄ってきたぶんだけ
朝ごはんのとき、
四人ぶんのお茶を注ぎに立ちかけて、
座り直した。
誰も頼んでいない。
昨日みたいに、要る人は言ってください、
と言えばいいのに、
朝は誰もそういう顔をしていなかった。
言わないほうを選ぶのも同じことのはず。
同じことのはずなのに、
少しさびしかった。
そのあと、凜ちゃんが湯呑みを卓の上でこちらへ寄せた。
訊かれてもいないのに、
要る、と言って。
ルナちゃんも寄せた。
真琴ちゃんも、手が勝手に動いたと言いながら寄せた。
三つ。
四人ぶんではなくて、
寄ってきたぶんだけ淹れた。
頼まれる前に用意するのを止めたら、
頼まれるほうが来た。
順番が逆になっただけで、
こんなに違う。
葵ちゃんのぶんは、
そのあと。
まだ食べているところだったので、
真琴ちゃんが、葵が寄せてからでいいと思います、
と言った。
人のぶんまで用意しておくのはあたしの癖だと思っていたけれど、
あの人にもあるらしい。
少し経って、葵ちゃんが自分で寄せに来た。
まだ湯があったので淹れると答えたとき、
ついでだから、と言いそうになった。
止めた。
ついでだから、は逃げ道だった。
相手に借りを作らせない代わりに、
こちらの手も無かったことにする言い方。
今週いっぱい、あの一言で全部済ませていた。
ついでじゃないです、
と言い直した。
葵ちゃんが寄せたので淹れます、
と。
午後、紙を書かずにアリーナへ行きます、
とルナちゃんに言いに行った。
結果が出る前に。
先に言われると、
こっちは訊けなくなる、
と返ってきた。
夜になっても訊かない、
とも。
訊いてもらってもいいんですけど、
と言いかけて、それだと先に言った意味が無いと気づいた。
訊かれないと落ち着かないほうが、
まだ残っている。