一本ぶんのお礼
七時五十分。
授業が始まる前の図書塔には、
まだ誰もいませんでした。
ルナの席に、ラムネを一本。
きのうの夕方、売店で買っておいたものです。
名前は書きませんでした。
添えようとしてメモを出したのですが、
「火曜日の件、ありがとうございました」
と書いてみたら、
あまりにも事務的で、やめました。
もう少しくだけた言い方を探して、
それもうまくいかず、
結局、瓶だけを置きました。
お礼を言うのに、
こんなに時間がかかるとは
思いませんでした。
きょうは泳がない日です。
測定のあとの一日は、
水に入らないと、先に決めてあります。
授業のあいだ、
一度も後ろを振り返りませんでした。
振り返らなくても、
席の近くで、
小さく、ぽん、と音がしたのは
聞こえましたけれど。
午後、図書塔を出る前に
机の上を片付けようとしたら、
端のほうに、見覚えのない物がありました。
中の玉だけが残った、
ラムネの空き瓶。
いつ置かれたのかは、分かりません。
夕食はホイル焼きでした。
開けたときの湯気が、眼鏡をくもらせました。
机の端に返ってきた、空き瓶一本。