言い直す前の一言
朝、手首の内側に、指を二本当てました。
とくとくと打つのを十五秒ぶん数えて、四倍します。
52。いつもの数字です。
きょうは屋内のプールで、50mを20本。
私の種目は、個人メドレーです。
10時20分には、バナナを1本食べました。
今週の週割りから、補食の欄に私の名前があります。
先週までは、葵の分しか書いていなかった欄です。
時計を見たら、10時20分ちょうど。
書いたとおりに食べられると、
それだけで午前が整います。
夕食は、肉じゃがでした。
葵が、掲示板の予定表にハロウィンと書いてあった、と言い出しました。
自分たちでやろう、と。
凜は仮装の話を始めて、
千鶴は、かぼちゃの話をしかけて、やめました。
ルナは、ひと言で済ませました。
私は、気がついたら、こう言っていました。
「やったことがありません」
箸が止まりました。
私のも、葵のも。
……っ。
「ですから、正しいやり方を、調べます」
言い直してから、ようやく、
じゃがいもが喉を通りました。
十月の終わりは、毎年、プールにいました。
それだけのことです。
あしたの昼休み、図書塔へ行きます。
調べものなら、得意です。
ただ、葵は、
私が言い直す前の一言のほうに、
「そっか」と、うなずいて——