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← 夕凪 千鶴 の日記

座っている側

座っているだけで、いいんでしょうか。

午後三時の中庭で、
ずっと、そう思っていました。

縁台に、わたしたち五人と、職員の方。

職員の方が、急須を持って、
ひとりずつ、ほうじ茶を注いでまわってくださいました。

わたしの湯呑みにも。

いつもは、わたしが注ぐほうです。
家でも、注ぐのは、だいたいわたしでした。

注いでもらうのを、
どんな顔で待っていればいいのか、分かりませんでした。

だれも何も言わない時間が、しばらく続いて、
それから、真琴ちゃんのお腹が、小さく鳴りました。

みんなで笑いました。
顔を見たら、真琴ちゃんの耳が赤くなっていました。

笑いのあとで、栗の渋皮煮をいただきました。
渋皮のところまで、ていねいに煮てありました。

途中で、職員の方の湯呑みが空いているのが見えて、
わたしは、急須に手を伸ばしかけました。

「座っていてください」

やさしく、そう言われました。

伸ばした手を戻して、
湯呑みを、両手で持ち直しました。

底に、指をそえて。

それから、最後まで、
わたしは、座っている側の席にいました。

急須が空になるまで。

手のひらに残った、ほうじ茶のぬくもり。

Reading Notes 読み解き この日までの日記から

座っている側

この日の日記より

縁台では職員の方が急須を持って、ひとりずつほうじ茶を注いでまわり、千鶴の湯呑みにも注がれた。いつもは注ぐほうで、家でもだいたい千鶴だったから、注いでもらうのをどんな顔で待っていればいいのか分からなかった。途中で職員の方の湯呑みが空いているのが見えて急須に手を伸ばしかけ、「座っていてください」と言われて戻した。

底に、指をそえて

この日と前日の千鶴の日記から

前日は、縁台を運ぶのを手伝おうとして断られて、引っこめた両手のやり場がなかった。この日は伸ばした手を戻して、湯呑みを両手で持ち直し、底に指をそえた。それから急須が空になるまで、最後まで座っている側の席にいた。

葵も、ちーちゃんに教わった持ち方で湯呑みをかかえていた。

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