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← 夕凪 千鶴 の日記

空いた両手

ごとん、と、重たい木の音がしました。

アリーナからの帰り道、
中庭で、職員の方が二人がかりで、縁台を運んでいました。

考えるより先に、足が動いていました。

「て、手伝います…!」

駆け寄ったら、職員の方は、
にっこりして首を横にふりました。

「ありがとう。でも、これはこちらの仕事ですから」

やわらかい声でした。

それで、わたしは、
縁台の角に伸ばしかけた両手を、引っこめました。

引っこめた手の、やり場がありませんでした。

前髪を押さえて、
スカートの横におろして、
また前髪を押さえて。

そのあいだに、縁台は一つずつ、
銀杏の下に並んでいきました。

運び終わったころ、葵ちゃんが走ってきて、
「ちーちゃん、もういる!」と笑いました。

みんなで座ってみた縁台は、
さっき運ばれていくのを見ていたものでした。

きょうのサーブは、四十本。
晩ごはんは、さわらの西京焼きと、きのこを炊きこんだご飯。

お茶碗を持っているあいだだけ、
両手のやり場に困りませんでした。

寝る前に、
何も持っていない手のひらを、しばらく見ていました。

Reading Notes 読み解き この日までの日記から

引っこめた手

この日の日記より

アリーナからの帰り道、職員の方が二人がかりで縁台を運んでいて、考えるより先に足が動いた。にっこりと、これはこちらの仕事だからと首をふられて、縁台の角に伸ばしかけた両手を引っこめた。やり場のない手で前髪を押さえ、スカートの横におろし、また前髪を押さえているあいだに、縁台は銀杏の下に並んでいった。

お茶碗を持っている

この日の千鶴と葵の日記から

葵ちゃんが走ってきて「ちーちゃん、もういる!」と笑ったのは、縁台を運び終わったころ。みんなで座ってみた縁台は、さっき運ばれていくのを見ていたものだった。晩ごはんでお茶碗を持っているあいだだけ、両手のやり場に困らなかった。

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