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← 夕凪 千鶴 の日記

一行目

夜の九時を、すこし過ぎたころ。

机の上に、便箋を一枚出しました。

妹たちからの返事は、まだです。
早くても、再来週。

分かっているのに、
次の手紙の、はじめの一行だけ、先に作ってみたくなりました。

一行目。

「お茶を、注いでもらいました」

書いてから、しばらく、その字を見ていました。

きのうの縁台で、
職員の方に注いでもらったほうじ茶のこと。

家の食卓では、急須を持つのは、たいてい長女のわたしの役目でした。
下の子たちの湯呑みから順番に。

注いでもらった、と書いたら、
それだけで、向こうの食卓がちょっと驚く気がします。

二行目は、書きませんでした。

この便箋は、返事が届いてから、
続きを書いて送ります。

それまでは、引き出しの中です。

午後のサーブは、四十本でした。

曇っていた空が、打っているあいだに晴れて、
アリーナの高い窓から、光が斜めに入っていました。

晩ごはんは、ポークカレーでした。

福神漬けの赤が、ごはんの白の上で、
きれいでした。

Reading Notes 読み解き この日までの日記から

一行目

この日の日記より

妹たちからの返事はまだで、早くても再来週なのに、次の手紙のはじめの一行だけ先に作ってみたくなった。一行目は「お茶を、注いでもらいました」。家の食卓では急須を持つのはたいてい長女の千鶴の役目で、注いでもらったと書いたら、それだけで向こうの食卓がちょっと驚く気がする。

引き出しの中

この日と前日の千鶴の日記から

前日の縁台で、職員の方の湯呑みに注ごうと伸ばした手を「座っていてください」と戻されて、最後まで座っている側の席にいた。この日の便箋は二行目を書かず、返事が届いてから続きを書いて送ることにして、それまでは引き出しの中。

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