衣装ケース
午前五時すぎのリンクは、
天井の明かりを半分しかつけない。
残りの半分は暗いままで、
氷の向こう側が、夜の続きみたいに見える。
そこで35分。
何本跳んだかは、数えてない。
このあいだ、そう決めたから。
あたしはフィギュアスケートをやってる。
世界一になる予定の。
で、夕食。
葵が、掲示板でハロウィンの字を見つけた、
五人でやろう、って騒ぎだした。
お菓子がどうとか、部屋を回るとか。
ド天然の考えそうなことよね。
だから、教えてあげたの。
ハロウィンって言ったら、仮装でしょ。
で、仮装なら、世界一はあたし。
決まってることをわざわざ言ってあげたんだから、
感謝してほしいくらい。
……で。
部屋に戻って、衣装ケースを開けた。
試合用の白銀。
練習着。
タイツと、手袋。
ぜんぶ、氷の上で着る服だった。
あれは仮装じゃない。
あたしの本番よ。
ふたを閉めた。
ねえ。
仮装って、そもそも、何を着ればいいわけ?