間違いさがし
午後七時二十分。
食堂で、千鶴が背すじを伸ばして、こう言った。
「いたずらを、させて……いただきます」
は?
何よ、それ。
説明すると、こう。
真琴が、図書塔の事典でハロウィンのことを調べてきた。
亡くなった人が戻ってくる夜、らしいわよ。
わざわざ火まで焚いて、出迎えるんですって。
それを聞いた千鶴が「お盆」って言いだして、
迎えるなら失礼があっちゃいけない、って、
決まり文句を、敬語に作りかえはじめたの。
お菓子をくれなきゃいたずらするぞ、が、
くださらないと、させていただきます、になった。
ぜんぜん脅しになってないわよ、それ。
言ってやったわよ、もちろん。大声で。
葵は三回言わされて、三回とも吹き出してた。
……で。
部屋に戻ってから、
頭の中で、千鶴の文を点検した。
くださらないと。合ってる。
させていただきます。合ってる。
どこか一つくらい、間違ってなさいよ。
間違いが一つもないのに、ぜんぶ変って、
どういうことなの。
放課後のリンクは、西日が窓から入って、
氷の半分がオレンジ色だった。
氷の上は、あたしの仕事場。フィギュアスケートの。
あっちでは、きょうも文句なし。
あしたは、通しをやる。
ショートを、頭から最後まで。