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← 久遠寺 凜 の日記

間違いさがし

午後七時二十分。

食堂で、千鶴が背すじを伸ばして、こう言った。

「いたずらを、させて……いただきます」

は?

何よ、それ。

説明すると、こう。

真琴が、図書塔の事典でハロウィンのことを調べてきた。
亡くなった人が戻ってくる夜、らしいわよ。
わざわざ火まで焚いて、出迎えるんですって。

それを聞いた千鶴が「お盆」って言いだして、
迎えるなら失礼があっちゃいけない、って、
決まり文句を、敬語に作りかえはじめたの。

お菓子をくれなきゃいたずらするぞ、が、
くださらないと、させていただきます、になった。

ぜんぜん脅しになってないわよ、それ。

言ってやったわよ、もちろん。大声で。

葵は三回言わされて、三回とも吹き出してた。

……で。

部屋に戻ってから、
頭の中で、千鶴の文を点検した。

くださらないと。合ってる。
させていただきます。合ってる。

どこか一つくらい、間違ってなさいよ。

間違いが一つもないのに、ぜんぶ変って、
どういうことなの。

放課後のリンクは、西日が窓から入って、
氷の半分がオレンジ色だった。

氷の上は、あたしの仕事場。フィギュアスケートの。
あっちでは、きょうも文句なし。

あしたは、通しをやる。
ショートを、頭から最後まで。

Reading Notes 読み解き この日までの日記から

脅し

この日の日記より

千鶴の言葉づかいは丁寧でも、凜が欲しいのは相手を脅す決まり文句。敬語として合っているかを点検しても、その役目を果たすかどうかは別に残る。だから間違いが見つからないのに、変だと思う。

文句なし

この日の日記より

氷の上では自分の仕事として出来を言い切れる。食卓の文には間違いを一つも見つけられず、部屋に戻ってまで点検が続いた。きれいに決着がつかないのは、この日はリンクの外のほうだ。

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