棚に戻した本
図書塔の窓の外は、海まで、ひとつづきの灰色でした。
きょうは、泳がない日です。
週割りに、そう書いてあります。
それなのに、10時20分、
私はバナナを食べていました。
補食は、泳ぐ日のためのものです。
泳がない日の欄は、空けてありました。
時計の針がそこへ来たら、手が勝手に皮をむいていました。
食べ終えてから、気がつきました。
……記録には、正直に「食べた」と書きます。
昼休み、仮装の載っている本を探しました。
行事の本の棚に、一冊ありました。
魔女。黒いとんがり帽子に、ほうき。
おばけ。白い布を、頭からかぶる。
黒猫。耳と、しっぽ。
絵を、順番に見ました。
一枚ずつ、その服の中に、自分を入れてみようとしました。
帽子をかぶった私。
布をかぶった私。
耳をつけた私。
どれも、絵の中の子の顔のままで、
私の顔には、なりませんでした。
水着と制服のほかに、
何かになるために服を着たことが、私にはありません。
本を閉じて、元の棚の、元の位置に戻しました。
夕食は、鯖の味噌煮でした。
仮装の載っている本は、ありました。
私に合う仮装が載っている本は、まだ見つかっていません。