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← 七瀬 葵 の日記

一個って言ったのに

帰ってきて帳面を開いたら、
いつもより早く閉じてた。

何もなかった日じゃない。

今日はちゃんとあった。

なのに手が軽い。

夕ごはんのあと、
まこるんに言ったんだ。

葵のぶんも、誰かに書いてもらったほうがいいのかなって。

そこまでしか出てこなかった。

書いといて、までが言えなかった。

そしたらまこるんのほうが先に、
私でよければ書きます、
って。

起きなかったことと、日付だけ。

理由は書きません、
って、葵のやり方のまんまで。

それで葵、二個渡しちゃった。

一個いい? って自分で言ったのに。

一個目は、浜が閉まってて走れなかったこと。

八月十三日。

二個目は、弟に出した手紙に、
一番楽しかったのがどれかだけ入れなかったこと。

手紙のほうは先週だと思ってたら、
昨日ですよって直された。

八月十二日。

ほんとだ。

日付が違うと、あとで読んだときに別の日になりますから、
って。

軽いのはたぶんそれ。

持ってたのを一個ずつ置いてくと、
置いた数だけ軽くなるんだ。

ふぁ〜。

みんなこれ知ってたのかな。

ラウンジにいたらリンリンが来た。

十一本目で降りて、
そのあと三本続けて落ちた。

以上。

数字だけ置いて帰りそうだったから、
葵が書いてるのは数字じゃないほうだよって言ったの。

は? って顔された。

それでもいいって。

理由のところは空けとけって。

空けるよ。

だって葵、理由のほうは知らないもん。

帳面に入れた一行は、
リンリンが自分から言いに来た、
だけ。

午後のトラックは千五百のペース走だった。

三百メートルを過ぎたところと、
そこから一周ごとに通過タイムを読んだ。

向かい風の直線だけ遅れる。

どの周もおんなじだけ遅れる。

おかしいでしょ、
それ。

遅れてるのに、揃ってるの。

走りながら、ふぁ〜って声が出た。

千五百でこうなったの、
たぶん初めて。

明日はお盆で精進料理だって、
ちーちゃんが言ってた。

葵ちゃんはたぶん物足りないと思いますって。

……それはまあ、
当たってる。

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