前日の軽さ
午後二時、屋内プールの時計の下で、
ノートを開いて立っていました。
きょうの欄は、短いんです。
「前日。軽く」。
父のメニューだったら、
測定の前の日は
もうひと山、泳ぎ込む日でした。
前日に追い込んでおくほうが
本番で身体が動く、というのが
父の組み立てです。
私の身体は、その考え方で
何年も泳いできました。
だから正直に書くと、
きょうは何度か、
レーンの前で迷いました。
もうひと山、足すべきじゃないか。
「軽く」なんて、
さぼりの言い換えじゃないのか。
……迷って、ノートに従いました。
自分で決めた計画を
前の日にひっくり返すほうが、
たぶん、ほんとうのさぼりだから。
軽めに泳いで早めに上がり、
道具をそろえて、爪を切りました。
準備は、ぜんぶ済んでいます。
ひとつだけ、
書くかどうか迷った問いがあります。
もし、あしたの数字が
よくなかったら。
私は、父のメニューに
戻るんでしょうか。
……この問いは、
今夜はここまでにします。
夕食は、船が届けてくれた
新しい卵のオムライスでした。
やわらかいものを食べると、
肩の力も少しやわらぎますね。
コーンスープも、おかわりしました。