二行目まで
「真琴、その紙、いま見てる暇ある?」
凜にそう言われて、
私は初めて自分の手元を見ました。
段取りの表を持ったまま、
まだ一度も車体に触れていませんでした。
ゆうべ作った紙です。
一、出す前に通り道の物を片づける。
二、押す三人と、横につく二人を決める。
三、坂の入口でいったん止まり、
声をそろえてから下る。
三行目には、誰も従いませんでした。
葵がもう押し始めていたからです。
正確に言えば、二行目の途中で
役に立たなくなりました。
担当を決めるより先に、
みんなの手が車体にかかっていたので。
紙をポケットに入れて、
私も後ろへ回りました。
そこから先は、書き出しても
あまり意味がありません。
持ち場も順番も、
その場で入れ替わり続けたからです。
それでも、荷は桟橋に着きました。
計画どおりではないのに、
着いてしまいました。
夕食のあいだ、紙はポケットに
入れたままでした。
捨てていません。
一行目は正しかったので。