0.4秒
IM 200を全力2本。
両方とも先週より0.4秒縮んだ。
父の下でのベストにはまだ届かない。
ただ、これは私の測定値、と呼べる初めての数字だ。
悪くないと三回書きそうになったが、
今日は書かなかった。
葵に、跳んだ距離見に来て、と頼まれた。
プールの後で行けるか、と応じた。
数字は残る方がいい、と口が動いた瞬間、
私はあの言葉を父から借りていた。
ただ、返す相手は葵で、借り主は私だから、
たぶん借用書は既に自分の名前で書いてある。
夕方、廊下でルナが2キロ上げた、
と数字で報告してきた。
0.4秒と2キロを交換した。
私はこの島で、数字を読む相手を得たと感じた。
父の食卓では読まれなかった欄が、
ここでは通じる。
ラウンジで葵が全員の数字を復唱した。
記録帳係、と冗談で呼んだ。
あの子は本気で受け取ったかもしれない。
それでいい。
あの子の中の得意を、言葉にしてあげただけ。
夜、記録帳を閉じる時、静かな満足、
と書いた。