最終行
書いてしまえば、
たった四文字でした。
朝、目が覚めて、脈を計って、49。
机の逆算表の、
きのう線を引いた場所に、
決めてあった言葉を書きました。
「たのしみ」
ひと月かけた表の最終行が、
数字でも、メニューでもなくて、
この四文字。
自分で決めておいて、
書いた朝に少し笑ってしまいました。
でも、ほかの言葉は
どれも違う気がしたんです。
13時からの記録会で、
200m個人メドレーを泳ぎました。
2分19秒87。
はじめての、19秒台です。
タッチした瞬間のことは、
実はあまり覚えていません。
覚えているのは、
水から上がったとき、
プールサイドがにぎやかだったこと。
きょうは五人が、
たがいの競技を初めて見る日で、
私も四人の数字が生まれる瞬間を、
順番に見ました。
見る側が、あんなに
力の入るものだとは
知りませんでした。
夜、部屋に戻って、
「たのしみ」の下に
2分19秒87、と書き足しました。
それ以上の言葉は、
書きませんでした。
書かなかったのではなくて、
まだ、持っていないんです。
この数字に何と言えばいいのか、
私はまだ知りません。
知らないまま、
表はきょうで終わりです。
机の上の、
役目を終えた一枚の逆算表。