数えなかった日
最初の音が鳴る前の、
あの静かさが、きょうは違った。
観客のいるリンクの静かさって、
無人のリンクのとは、
別ものなのね。
きょうは記録会。
あたしはショートの通しを一本。
三回転ループは、二回。
二回とも、降りた。
手も、つかなかった。
曲が終わって、
最後のポーズのまま
息をしてたら、
拍手が四人ぶん聞こえて、
……ちょっとだけ、
終わりたくなかった。
ちょっとだけよ。
で、部屋に戻ってから
気づいたんだけど。
あたし、きょう、数えてない。
いつもなら、跳んだ本数と
降りた本数を数えて、
帳尻を確かめてから寝るのに、
きょうは、曲と、氷と、
あの静かさの記憶しかないの。
「降りた」と「怖くなかった」が
同じ意味かどうかは、
きょうも分からないまま。
それはいいの。急がないから。
でも、数えなかった日って、
たぶん、初めてで——
……なんでもない。
今日はここまで。