一拍ぶん
朝、手首に指を当てて、脈を数えました。
一分で、52。
いつもの朝の数字です。
午前は、図書塔で授業でした。
静かな時間の途中で、
となりの席から、小さな音がしました。
葵のお腹でした。
聞こえなかったふりをしよう、と思ったのは、
自分のペンが止まったあとでした。
一拍、遅れました。
葵は、たぶん見ていました。
横顔のまま、耳が少し赤くなっていたので。
ああいうときは、
すぐ書き続けるのが、いちばん親切なはずです。
私は、その「すぐ」を、
一拍ぶん、間違えました。
午後は屋内プールで、50mを20本。
週割りのとおりに泳いで、
ノートの月曜の行に、丸をつけました。
同じ頁の下のほうで、
土曜の欄だけが、まだ空いています。
本数を書くか、休みと書くか。
今夜は、決めきれませんでした。
夕食の献立は、ちゃんちゃん焼きとひじきの煮物。
葵はいつもどおりおかわりをしていて、
私は、少しだけほっとしました。
あの一拍は、葵にはどのくらいの長さに聞こえたんでしょう?