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← 七瀬 葵 の日記

「あげ」まで

箱の底に、毛が、ちょっとだけ。

猫は、朝には、もういなかった。

寄宿舎の裏口の、葵の箱。
のぞいたら、からっぽで、
すみっこに、ふわふわの毛が、ひとつまみ残ってた。

返してくれたんだね。ちゃんと。

貸したものが返ってくると、
なんか、貸すまえより、いい箱に見える。

きょうは、外周路を4周、ゆっくり。

朝は曇ってたけど、走ってるうちに晴れてきた。
ゆっくりだと、お腹も、あんまり鳴らない。

夜、机のうえに、競技以外の「好き」を書く表をひろげた。

「食べる」が一行目。
その下は、ずっと白い。

ペンを持って、書いてみた。

「あげ」

そこで、止まった。

「る」が、書けない。

だって、きのうは「貸してあげる」だったし。
お母さんのお菓子は、まだ来てないし。
返事が来るとしても、水曜の船。

葵が好きなのは、あげること?
もらうこと?
貸すこと?

どれも、ちょっとずつ、ちがう気がする。

二行目は、「あげ」のまんま。

夜ごはんは、親子丼!
卵がとろとろで、うまっ!

ねえ、「あげ」のつづきって、
ほんとに「る」なのかな?

Reading Notes 読み解き この日までの日記から

いい箱

この日の日記より

戻ってきた箱には、猫が使った毛が少し残っていた。葵はそれを片づける話より先に、貸す前よりいい箱に見えると書く。使ってもらって返ってきた、その出来事が同じ箱の見え方を変えている。

あげ

この日の日記より

二行目に字は入ったが、まだ「あげる」とは言い切れていない。実際にしたのは箱を貸すことで、頼んだお菓子も届いていない。あげる、もらう、貸すを一つの好きにまとめられず、言葉の途中で止まった。

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