返さなくていい
郵便棚が、ぎゅうぎゅうだった。
いつもは水曜の朝のうちに配られてるのに、
きょうは船が向かい風で遅れて、
郵便を分けるのが、お昼休みまでかかったんだって。
だから、昼休みの寄宿舎の郵便棚に、
みんなのが、いっぺんに並んでた。
葵のとこには、箱!
お母さんの字で、七瀬葵さま。
来た。来てた。
抱えたら、思ってたより軽くて、
ゆすったら、かさかさって音がした。
となりの、ちーちゃんの棚には、封筒と、袋。
袋に、太いマジックで「小豆」。
「あんこ!? ちーちゃん、なに作るの!?」
って、大きい声が出ちゃった。
ちーちゃんは「ち、ちがいましゅ」で止まって、
リンリンが「中身は当日まで言わないことでしょ」って。
そうだった。ごめん、ちーちゃん。
午後は、船の日だから軽めに、100mを4本。
夜、部屋で箱を開けた。
風呂敷の包み。
うちの、紺に白い波の柄の。
ほどいたら、芋けんぴの小さい袋が、10袋。
一つずつ、口をくるくるってねじって、結んであった。
お母さんの結び方。
いちばん上に、メモが一枚。
「ふろしきは、返さなくていいからね」
それだけ。
この風呂敷、知ってる。
弟がちっちゃいころ、ヒーローごっこのたびに、
葵があごの下で結んでやってた、あれ。
お母さん、それ、覚えてたのかな。
それと、夜ごはん。
鰤の照り焼きを食べながら、三十一日は、夜の八時から回ることになった。
渡すものは、来てくれる四人に、一人一個ずつ。
10袋あるから、四人に一つずつでも、ちゃんと足りる。
葵の箱は、間に合った。