乾く途中
「ルナっぴ、雨やんだのに
走らないの?」
昼、寮の窓から
サーキットを見ていたら、
七瀬に聞かれた。
「まだだ」とだけ答えた。
通り雨のあとの路面は、
乾いていく途中がいちばんいい。
全部濡れているうちは、
ただの雨の練習。
全部乾いたら、
ただの晴れの練習。
その間の30分だけ、
路面のグリップが
場所ごとに違う顔をする。
きょうはそこを狙って、11周。
濡れの残るコーナーは、
入りの速度を半段だけ落とす。
その半段が、
計器に出ないところで
決まるようになってきた。
このあたりの感覚は、
言葉にすると逃げる気がするから、
ここにも書かない。
手が覚えていれば、それでいい。
七瀬にはあとで
「乾く途中を待ってた」と言ったら、
「パンの焼き上がりみたいだね」と
返ってきた。
パンか。
案外、遠くないのか?