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← 久遠寺 凜 の日記

桟橋までの勝負

ごろごろ、って音がずっとしてた。

タイヤを転がす音。

五人で坂を下りていくあいだ、
その音だけがついてくるの。

あたしはタイヤ担当。
車体のほうは背が届かないんだもの。

……身長のせいじゃないから。
これは役割分担っていうのよ。

途中でルナに言ってやった。

「ねえ、あんた。
氷の上ならあたしのほうが速いから。
覚えときなさいよ」

ルナは三秒くらい黙ってから、
「そうか」って言った。

……「そうか」って何よ。

そのあと、口の端がちょっとだけ
動いた気がする。
気のせいかもしれないけど。

なんで急に勝負を申し込んだのか、
自分でもよく分からない。

分からないけど、言わずにいたら
桟橋まで持たない気がしたの。

船に積み終わったら、
みんな急に静かになった。

だからまた何か言おうかと思って、
やめた。

夜は鯖の味噌煮。

あたしはさつま芋を半分だけ。
甘いものは、少しでじゅうぶんなの。

Reading Notes 読み解き この日までの日記から

覚えときなさいよ

この日の日記より

タイヤ担当で坂を下りる途中、凜はルナに、氷の上ならあたしのほうが速いと言った。ルナは三秒くらい黙ってから「そうか」。そのあと口の端がちょっとだけ動いた気がする、と凜は書いている。

桟橋まで持たない

この日と9/7の日記より

なんで急に勝負を申し込んだのか、凜は自分でもよく分からない。分からないけど、言わずにいたら桟橋まで持たない気がした。9月7日には、大きい声を出しているあいだはほかのことを言わなくて済む、と書いていた。

積み終わって静かになったとき、凜が何を言おうとしてやめたのかは書かれていない。
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