書けない一行
雨の日のアリーナは、
床を打つ音が低くなります。
ボールが跳ねるたび、
音が天井のほうへ上がっていって、
戻ってこない感じがします。
きょうはサーブを50本。
そのうち、狙った場所に落ちたのが
31本でした。
先週より、少しだけ増えています。
半分より上に来たのは初めてです。
夕食のあと、便箋を出しました。
三人ぶんのお返事です。
上の妹には、島の秋のこと。
弟には、船で運んだ荷物のこと。
二通は、するすると書けました。
下の妹への一通で、止まりました。
いつ見られるの、という問いに、
日付は書けません。
まだ決まっていないからです。
代わりに書きたい一行があります。
——いつか、見に来てください。
この一行を、三度書いて、
三度消しました。
書けない理由は、分かっています。
見に来てもらうには、
わたしが勝ち続けなくてはいけない。
負けた日も見に来てくださいと
言える気が、まだしないんです。
だからきょうは、そこで手を止めました。
夜は豚バラ大根でした。
なめこのおみそ汁が熱くて、
ゆっくりしか飲めませんでした。
書けないものは、まだ書けません。
きょうはそれでいいことにします。