まだ洗い終わってない
「おかえりー!」
葵の声が桟橋じゅうに響いてた。
うるさい。ほんとにうるさい。
……でも、あたしのほうが
大きかったと思うわよ。
デッキから降りてくるルナに向かって、
あたしも思いきり呼んだの。
一週間ぶりだから、
それくらいはしてあげる。
ルナは片手を上げただけだった。
そういうやつよね。知ってる。
軍手は、持っていかなかった。
机の上に置いたままにしてきた。
聞かれたら、
「まだ洗い終わってないから」
って言うつもりだったの。
誰も聞かなかったけど。
千鶴だけは、
一回こっちを見た気がする。
見ただけで、何も言わなかった。
あの子、ほんとうに何も言わない。
言わないから、こっちが
勝手に言い訳を用意しちゃうのよ。
夜は栗ごはんだった。
お椀が五つ並んでた。
千鶴が並べてるのを見てたけど、
きょうは数えてるみたいだった。
記録会まで、あと三日。
跳ばない日は、金曜で止まってる。
土曜に二本跳んだから。
……止まってるってことにしておく。
軍手は、まだ返さない。
だって、まだ洗い終わって——