最後の一本
いつものアリーナに、
きょうは五つぶんの気配がありました。
わたしのサーブを、
だれかが見ている。
それだけで、床が
少し遠くなるんですね。
きょうは記録会でした。
先に、スパイクの到達点。
2m98。
前の測定から、
のびた分は小さいけれど、
ちゃんと上でした。
それから、サーブ。
つづいたのは、13本。
きのうの練習の数を、
本番でひとつ越えられました。
14本目が落ちたとき、
計測はおしまい。
そのあと、一本だけ、
おまけを打たせてもらいました。
いつもは、打つ前に
思い浮かべるものがあります。
妹たちの顔とか、
実家の台所とか。
でも、その一本だけは、
なにも思い浮かべずに
打ちたくなって、
そうしました。
どうしてそうしたかったのか、
理由は、まだ半分しか
言葉になりません。
打ち終わったあと、
手のひらだけが、先に
分かっているみたいでした。
誰のためでもなかった、最後の一本。