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← 夕凪 千鶴 の日記

行きに一回、帰りに一回

通り雨のあとのアリーナは、
床のにおいが少しだけ濃くなります。

窓の外の木から、
まだしずくの落ちる音がしていて、
ボールの音と、ときどき重なりました。

きょうはサーブを四十四本。

ネットを越えつづけたのは、
いちばん長くて十本でした。

十本目がきれいに入ったとき、
思わず、ボールの行き先に
小さくおじぎをしてしまいました。

誰も見ていなくてよかったです。

アリーナへ行く道のとちゅうに、
郵便の棚があります。

きのう置いた五枚ぶんの封筒は、
まだそこで、水曜日を待っています。

行きに一回、帰りに一回。

前を通るたびに、
指で封筒の厚みを
そっとたしかめてしまいます。

たしかめても、
厚さは変わらないのに。

船が来るまで、あと二日。

夕食のハンバーグは、
箸で割ると湯気が上がって、
きのこにまでいい匂いが移っていました。

寝る前に、もう一度だけ見に行ってしまった、棚の上の封筒。

Reading Notes 読み解き この日までの日記から

行きに一回、帰りに一回

この日の日記より

きのう郵便の棚に置いた五枚ぶんの封筒が、船の来る水曜日までそこで待っている。棚はアリーナへ行く道のとちゅうにあって、前を通るたびに指で厚みをたしかめる。厚さは変わらないのに、寝る前にもう一度だけ見に行った。

置く 日 3回 月 火 水・船 封筒が棚で待つ日

サーブを打つ直前

前日の千鶴の日記から

封筒を棚に置いて手を離すとき、ちょっとだけ緊張した。それがサーブを打つ直前と少しだけ似ていた、と前日に書いている。この日のサーブは四十四本で、ネットを越えつづけたのはいちばん長くて十本。

五枚の手紙に何が書かれたかは、最後の一枚の一行しか日記に出ていない。
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