行きに一回、帰りに一回
通り雨のあとのアリーナは、
床のにおいが少しだけ濃くなります。
窓の外の木から、
まだしずくの落ちる音がしていて、
ボールの音と、ときどき重なりました。
きょうはサーブを四十四本。
ネットを越えつづけたのは、
いちばん長くて十本でした。
十本目がきれいに入ったとき、
思わず、ボールの行き先に
小さくおじぎをしてしまいました。
誰も見ていなくてよかったです。
アリーナへ行く道のとちゅうに、
郵便の棚があります。
きのう置いた五枚ぶんの封筒は、
まだそこで、水曜日を待っています。
行きに一回、帰りに一回。
前を通るたびに、
指で封筒の厚みを
そっとたしかめてしまいます。
たしかめても、
厚さは変わらないのに。
船が来るまで、あと二日。
夕食のハンバーグは、
箸で割ると湯気が上がって、
きのこにまでいい匂いが移っていました。
寝る前に、もう一度だけ見に行ってしまった、棚の上の封筒。