何食わぬ顔
四時五十分。
目覚ましより先に、目が開いた。
外はまだ真っ暗で、
窓ガラスに、雨の粒がついてた。
誰も起きてない廊下を、
スケート靴の袋を抱えて抜ける。
夜明け前のリンクは、
照明をつけても、
どこか青っぽいのよね。
四十分だけ。
三回転ループは7本。
降りたのは6本。
1本は回転が足りなくて、
着氷でつまった。
手はついてない。
外が白んできたころには、
氷からあがって、靴を拭いてた。
部屋に戻って、シャワーを浴びて、
制服に着替えて、
ツインテールを結び直して。
それから図書塔に顔を出したら、
葵と千鶴がいた。
「リンリン、ねむそう」
葵に言われたから、
「寝すぎたのよ。土曜だもの」
って答えておいた。
嘘はついてないわ。
四時五十分までは、ぐっすりだったんだから。
千鶴はなにか分厚い本を抱えてて、
それどころじゃなさそうだった。
雨の土曜日の、図書塔。
あくびをかみ殺した、何食わぬ顔。