消しゴムの跡
「朝から何してんの、真面目ちゃん」
六時すぎ、寄宿舎の廊下の窓辺で、
凜に声をかけられました。
凜はリンクから帰ってきたところで、
私は、手首に指を当てていたところでした。
「脈です。五十一でした」
「ふーん。数えるの、好きね」
凜はそう言うと、
なぜか一瞬だけ黙って、
部屋のほうへ行ってしまいました。
午後は屋内プールで、
50mを20本。
先週の日曜に組んだ週割りの、
いちばん上の行です。
月曜は屋内で50m、
水曜は船の日なので軽め、
金曜は泳がない日。
そのとおりに、きょうが終わりました。
夕食は豚の生姜焼きでした。
葵の発表会の候補は、
まだ一つしかないそうです。
一つめは「食べる」。
葵らしい、と思いました。
笑いそうになってから、
候補が一つあるだけ、
私よりは進んでいるのかもしれない、
とも思いました。
寝る前に、ノートを開きました。
週割りの頁の余白に、
先週消した一行の跡が、
まだ薄く見えます。
「作らな」まで書いて、消した跡。
消したのに、
読もうと思えば、読めてしまう。
予定どおりに進んだ月曜の夜に、
どうして私は、
消した跡のほうばかり見ているんでしょう?