比べる数字がない
計られるのは、慣れているつもりでした。
プールでは、いつも時計が回っています。
壁の大きな時計の秒針を見ながら、
五十メートルごとに、
自分の数字を確かめる。
きょうも屋内で、50mを18本。
週割りどおりです。
でも、夕食で計られたのは、
泳ぎではありませんでした。
「いただきます」と言って、
箸を取るまで。
「2.1」
向かいのルナが、それだけ言って、
ノートに書きこみました。
白いキッチンタイマーが、
シチューのお皿の横に置いてありました。
「……今の、私ですか?」
ルナは答えませんでした。
2.1秒。
長いのか、短いのかも分かりません。
比べる数字が、どこにもないので。
なのに、部屋に戻ってから、
あしたも同じ2.1秒にしなければ、
と考えている自分がいました。
誰にも頼まれていないのに。
机の前で手を合わせて、
「いただきます」と小さく言って、
箸のかわりに鉛筆を取ってみました。
一、二。
……たぶん、少し速かった。