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← 夕凪 千鶴 の日記

ピッ、のあと

ピッ。

夕食の途中、テーブルのまんなかで、
小さな電子音が鳴りました。

「ひゃっ」

声が出たのは、わたしでした。

スプーンがお皿のふちにあたって、
もうひとつ、かちゃんと音がしました。

音のもとは、ルナちゃんの前に置いてある、
白いキッチンタイマーでした。

葵ちゃんのシチューの一杯目を、
計っていたみたいです。

四分五十秒、と聞こえました。

葵ちゃんは「計ってたの⁉」とびっくりしていて、
真琴ちゃんは、その前に、
手を合わせてから箸を取るまでを
計られていたそうです。

わたしは、なにも計られていない……
はずでした。

でも、わたしが「ひゃっ」と言ったあと、
ルナちゃんのペンが、
ノートの上ですこし動いたんです。

なにを書いたのかは、見えませんでした。

聞く勇気も、ありませんでした。

部屋にもどってからも、
ピッ、の音が耳のおくに残っています。

お布団の上で、何度か練習してみました。

心のなかで、ピッ、と鳴らして、
声を出さずに、息だけ吐く。

五回やって、五回とも、
ちゃんと黙っていられました。

あしたは、ぜったいに「ひゃ」とは言いません。

Reading Notes 読み解き この日までの日記から

ペン

この日の千鶴とルナの日記より

千鶴に見えたのは、自分の声のあとでペンが動いたところまで。ルナの日記では、千鶴の行はまだ作っていない。紙に触れたペン先だけで、千鶴には自分も記録されたかもしれない心配が生まれている。

五回

この日の千鶴の日記より

五回とも黙れたのは、心のなかで自分が鳴らした音に対して。食堂で不意に鳴った音とは、待ち構えられるかどうかが違う。千鶴は部屋でできたことを頼りに、次は声を出さないと決めている。

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