ピッ、のあと
ピッ。
夕食の途中、テーブルのまんなかで、
小さな電子音が鳴りました。
「ひゃっ」
声が出たのは、わたしでした。
スプーンがお皿のふちにあたって、
もうひとつ、かちゃんと音がしました。
音のもとは、ルナちゃんの前に置いてある、
白いキッチンタイマーでした。
葵ちゃんのシチューの一杯目を、
計っていたみたいです。
四分五十秒、と聞こえました。
葵ちゃんは「計ってたの⁉」とびっくりしていて、
真琴ちゃんは、その前に、
手を合わせてから箸を取るまでを
計られていたそうです。
わたしは、なにも計られていない……
はずでした。
でも、わたしが「ひゃっ」と言ったあと、
ルナちゃんのペンが、
ノートの上ですこし動いたんです。
なにを書いたのかは、見えませんでした。
聞く勇気も、ありませんでした。
部屋にもどってからも、
ピッ、の音が耳のおくに残っています。
お布団の上で、何度か練習してみました。
心のなかで、ピッ、と鳴らして、
声を出さずに、息だけ吐く。
五回やって、五回とも、
ちゃんと黙っていられました。
あしたは、ぜったいに「ひゃ」とは言いません。