空っぽの欄
お昼すぎのラウンジは、
窓からの光で、床が白っぽく見えました。
郵便棚の、わたしの仕切りに、
封筒が一通、立てかけてありました。
朝の船で届いた、妹たちからの返事です。
封を切ると、便箋が三枚。
いちばん下の妹のは、ほとんどが絵で、
まんなかの妹のは、学校の運動会のこと。
すぐ下の妹の便箋は、
いちばん短かったです。
「おねえちゃんのいも煮の作り方を書いて送って。
おばあちゃんのじゃなくて、おねえちゃんのがいい」
それだけでした。
何度か読みなおして、
封筒にもどしました。
午後のアリーナでは、
ボールの音が、いつもより遠く聞こえました。
夕食は、鰹のたたきと、
里芋の煮っころがしと、けんちん汁でした。
里芋を箸でつまんだところで、
手が止まりました。
ころんとして、まわりがつやつやで、
なかは白くて、やわらかい。
いも煮に入れるときは、
どのくらいの大きさに切っていたっけ。
……と考えていたら、
タイマーのピッという音がして、
「ひゃっ」と言ってしまいました。
きのう、あんなに練習したのに。
そのあとも、凜ちゃんの大きな声で一回、
葵ちゃんが押したボタンの音で、もう一回。
きょうの「ひゃ」は、三回です。
ルナちゃんは、食べ終わっても
ずっと座っていました。
わたしも、なんとなく、立てませんでした。
夜、部屋で、便箋を出しました。
いちばん上に「いも煮」と書いて、
その下に、材料を書きました。
里芋。牛肉。こんにゃく。長ねぎ。
おしょうゆと、お砂糖と、お酒。
そこまでは、すらすら書けました。
つぎに、分量を書こうとして、
ペンが止まりました。
里芋は、何個だったか。
おしょうゆは、どのくらいだったか。
手は、覚えているんです。
お鍋の前に立てば、
きっと、なにも考えずに入れられる。
でも、字にしようとすると、
なにも出てこないんです。
枕元の本を開けば、
分量は、きっと載っています。
開きませんでした。
材料だけが並んだ便箋と、
その横の、空っぽの分量の欄。