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← 久遠寺 凜 の日記

中身のない紙

部屋の床が、白い紙で埋まってる。

午後、ゴミ箱のまわりに転がってた白い玉を、
ぜんぶ拾って、ひとつずつ広げてみたの。

しわしわの紙を、床に並べて、
指で、のばして。

窓からの光が、晴れてきたところで、
紙のしわに、細い影ができてた。

並べ終わって、上から見下ろした。

世界一。
世界一。
世界一。

どの紙にも、いちばん上に「世界一」。

その下は、ぜんぶ白い。

一枚も、中身が書いてない。

……ウケるんだけど。

あたし、一週間かけて、
世界一って書く練習しかしてないじゃない。

字だけは、どんどん上手くなってる。
最後のほうの「界」なんて、ほぼ完璧。

三分から五分で見せる世界一の、
「なに」のところ。

まだ、一ミリも決まってない。

紙は、捨てなかった。

しわをのばしたまま重ねて、
机の引き出しにしまった。

あしたも、夜明け前のリンク。

跳んでから、また考えるわ。

Reading Notes 読み解き この日までの日記から

字だけ

この日の凜の日記より

紙を並べると、「世界一」の字は上達していても、その下は一枚も埋まっていない。凜は自分で笑いながら、書く練習と、何を見せるかを決める作業の違いを認める。ほぼ完璧な「界」でも、発表会の中身の代わりにはならない。

捨てなかった

この日と前日の凜の日記より

きのうまで丸めていた紙を、きょうは広げて重ね直した。中身が決まらないままの紙を、もう一度捨てるのではなく引き出しへ収める。答えは増えていないが、書けなかった紙の扱いは変わった。

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