いち、に
午前五時すぎ。
リンクの明かりをつけたら、
氷の上に、あたしの影がひとつだけ。
きょうから、数えない。
きのう、そう決めた。
跳んだ本数を、数えない。
決めたのはあたしなんだから、
守るのも簡単——のはずだった。
一本目、降りた瞬間に、
頭の中で「いち」って声がした。
……数えてないし。
二本目、降りた。
「に」。
だから、数えてないってば。
三本目からは、
降りるたびに出てくるその声を、
ひと足ぶん、後ろへ蹴っとばした。
35分、ずっとそれ。
跳ぶより、打ち消すほうが忙しかったわよ。
最後の一本を降りて、
リンクの時計を見て、上がった。
何本跳んだかは、知らない。
ほんとに知らない。
……けっこう跳んだ、とは思う。
って、いま数えようとしたでしょ、あたし。
最悪。
午前の図書塔では、葵のお腹が鳴ってた。
あたしは、聞こえないふりをしてあげた。
世界一、自然に。
夕方、食堂の前を通ったら、
味噌とバターの焼ける匂いがしてた。
きょうは鮭のちゃんちゃん焼き、だって。