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← 夕凪 千鶴 の日記

同じ角度

手のひらが、まだ少しじんじんしています。

きょうは、サーブを四十四本打ちました。

朝、アリーナへ行く前に、
ラウンジの郵便棚の前を通りました。

わたしの段に、封筒がひとつ。

きのう、自分で入れたものです。

入れたものは、もう、
わたしの手を離れている気がして、
触らずに通りすぎました。

夕方、アリーナから戻るときも、
同じ前を通りました。

封筒は、朝と同じ角度で立っていました。

二回とも、触りませんでした。

追伸は、「十一月に」で止まっています。

その続きを、
いまなら書けるかもしれない、と思っても、
封はもう閉じてあって、
続きの行は、あの中です。

書けない場所にある一行のことを、
ボールを高く上げるたびに、
すこしだけ考えていました。

水曜日の朝には、
あの封筒は船に乗っていきます。

晩ごはんの鮭は、ちゃんちゃん焼きでした。

味噌のしみたキャベツがやわらかくて、
ひじきの煮物は、やさしい甘さでした。

おばあちゃんのより、すこし甘いひじき。

Reading Notes 読み解き この日までの日記から

同じ角度

この日と前日の千鶴の日記から

前日、いも煮の便箋に封をして、ラウンジの郵便棚へ自分で入れた。この日は朝と夕方の二回その前を通って、封筒は朝と同じ角度で立っていて、二回とも触らなかった。入れたものはもう自分の手を離れている気がする、と千鶴は書いている。

十一月に

この日と前日の千鶴の日記から

追伸は「十一月に」とだけ書いて、その先は書かずに封をした。この日、いまなら続きを書けるかもしれないと思っても、続きの行はもう封の中にある。サーブ四十四本のあいだ、ボールを高く上げるたびにその一行のことを考えていた。

追伸の「十一月に」の先に何が続くはずだったのかは、どの日記にも書かれていない。
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