冷めていく湯呑み
食堂の湯呑みは、白くて、すこし厚手です。
両手で包むと、
ちょうど指がまわりきるくらいの大きさ。
午後は、アリーナで打ち込みを四十二本。
晩ごはんは、ハンバーグでした。
葵ちゃんが、授業中に二回お腹が鳴ったって、
しょんぼりしながら話してくれました。
みんなが対策を言うのを聞いていたら、
葵ちゃんが、わたしのほうを見ました。
「ちーちゃんは?」
わたしに言えることは、あまりなくて、
目の前の湯呑みを持ちました。
「あ、あの…あったかいお茶を、こう、
り、両手で、持つと…」
両手で包むようにして、
底のところに、指をそえる。
小さいころ、おばあちゃんに直された持ち方です。
ゆっくり飲むと、お腹がびっくりしない気がする、
と言ったら、葵ちゃんは真剣な顔で真似をして、
紙ナプキンにメモしていました。
湯呑みの底に指をそえながら、
わたしは、べつのことも考えていました。
あしたの朝、郵便の箱が閉じられたら、
あの封筒は、船に乗ります。
教えているあいだに、
手のなかの湯呑みが、
すこしずつ冷めていくのが分かりました。
封筒が船に乗るまで、あと、何時間なんでしょう?