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← 夕凪 千鶴 の日記

冷めていく湯呑み

食堂の湯呑みは、白くて、すこし厚手です。

両手で包むと、
ちょうど指がまわりきるくらいの大きさ。

午後は、アリーナで打ち込みを四十二本。

晩ごはんは、ハンバーグでした。

葵ちゃんが、授業中に二回お腹が鳴ったって、
しょんぼりしながら話してくれました。

みんなが対策を言うのを聞いていたら、
葵ちゃんが、わたしのほうを見ました。

「ちーちゃんは?」

わたしに言えることは、あまりなくて、
目の前の湯呑みを持ちました。

「あ、あの…あったかいお茶を、こう、
り、両手で、持つと…」

両手で包むようにして、
底のところに、指をそえる。

小さいころ、おばあちゃんに直された持ち方です。

ゆっくり飲むと、お腹がびっくりしない気がする、
と言ったら、葵ちゃんは真剣な顔で真似をして、
紙ナプキンにメモしていました。

湯呑みの底に指をそえながら、
わたしは、べつのことも考えていました。

あしたの朝、郵便の箱が閉じられたら、
あの封筒は、船に乗ります。

教えているあいだに、
手のなかの湯呑みが、
すこしずつ冷めていくのが分かりました。

封筒が船に乗るまで、あと、何時間なんでしょう?

Reading Notes 読み解き この日までの日記から

湯呑みの底

この日の千鶴と葵の日記から

葵ちゃんに「ちーちゃんは?」と聞かれて、言えることがあまりなくて、目の前の湯呑みを持った。両手で包んで底のところに指をそえる、小さいころおばあちゃんに直された持ち方。葵ちゃんは真剣な顔で真似をして、紙ナプキンにメモした。

あと、何時間

この日と前日の千鶴の日記から

前日は朝と夕方に郵便棚の前を通って、二回とも封筒に触らなかった。この日、持ち方を教えながら考えていたのは、あしたの朝に郵便の箱が閉じられたら、あの封筒が船に乗ること。教えているあいだに、手のなかの湯呑みがすこしずつ冷めていった。

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