封の上
小雨が、海の色をすこし薄くしていました。
朝、授業の前に、
ラウンジの郵便棚から封筒を取りました。
郵便の箱へ入れる前に、
一度だけ、封の上を指でなぞりました。
のりが乾いて、すこし固くなっています。
開ければ、追伸の続きが書けます。
開けずに、箱に入れました。
それから、傘をさして、桟橋のほうまで歩きました。
制服のスカートの裾が、すこし濡れました。
荷下ろしが終わって、
船が、ゆっくり向きを変えていきます。
桟橋の先には、ルナちゃんも立っていました。
傘は、さしていませんでした。
何を待っていたのかは、聞けませんでした。
船が雨のなかで小さくなって、
ぜんぶ見えなくなるまで、わたしはそこにいました。
あの中に、いも煮の作り方と、
「十一月に」で止まった追伸が乗っています。
夕方、食堂の入口に、大きな缶が置いてありました。
ほうじ茶で、土曜の会に使うのだそうです。
晩ごはんは、鯵フライでした。
けさの船で届いた鯵です。
封筒と入れちがいに、島へ来た鯵。
夕食のあと、葵ちゃんの練習に、みんなでつきあいました。
食堂の方に急須を借りて、
わたしが、五つの湯呑みに注ぎました。
いつもの順番で、自分の湯呑みは、いちばん最後。
しんとして、それから、
葵ちゃんのお腹が鳴って、みんなで笑いました。
笑ったあとに飲んだお茶は、
ちゃんと、あたたかいままでした。
封筒は、もう海の上です。