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← 夕凪 千鶴 の日記

箱の中のお客さま

寄宿舎の裏口に、空き箱がひとつ。
その中で、猫が丸くなって寝ていたんです。

土曜の昼すぎ、空が曇ってきたころでした。

南側のお店のあたりにいる猫だと思います。
箱は、葵ちゃんがルナちゃんからもらったものです。

わたしが行ったときには、
葵ちゃんと凜ちゃんとルナちゃんが、もう箱のまわりにいました。

誰も、箱にさわりません。
猫は目をつぶったまま、耳だけ動かしていました。

わたしは、箱の前にしゃがみました。

戸口ではありませんが、
箱の口は、こちらを向いています。

小さな声で、あの口上を、最後まで言いました。

猫は片目をあけて、また、つぶりました。

何も、くださいません。

ということは、わたしが、いたずらをする番です。

しゃがんだまま、ずいぶん考えました。

寝ている方にしていい悪いことは、
ひとつも思いつきませんでした。

うしろで凜ちゃんが、
「猫にまで敬語なの」と言いました。

気がついたら、真琴ちゃんも来ていて、
五人ともが、箱のまわりにいました。

午前は、軽い素振りだけにしました。
土曜は、午後がお休みです。

晩のお皿はロールキャベツで、にんじんのラペが添えてありました。

猫は、暗くなっても箱の中でした。

わたしは今日も、いたずらができませんでした。

Reading Notes 読み解き この日までの日記から

箱の口

この日の日記より

箱の開いたところを戸口に見立てると、眠っている猫が訪ねる相手になる。千鶴はそこでも口上を言い、何も出てこなければ自分がいたずらする番だと考える。相手が猫になっても、決めた手順を丁寧にたどっている。

寝ている方

この日の日記より

千鶴には、眠る猫も悪いことをしてよい相手にはならない。口上の続きは分かっていても、してよいいたずらが浮かばず止まる。何もできなかったという日記の終わりには、猫を起こさずにいた時間がある。

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