箱の中のお客さま
寄宿舎の裏口に、空き箱がひとつ。
その中で、猫が丸くなって寝ていたんです。
土曜の昼すぎ、空が曇ってきたころでした。
南側のお店のあたりにいる猫だと思います。
箱は、葵ちゃんがルナちゃんからもらったものです。
わたしが行ったときには、
葵ちゃんと凜ちゃんとルナちゃんが、もう箱のまわりにいました。
誰も、箱にさわりません。
猫は目をつぶったまま、耳だけ動かしていました。
わたしは、箱の前にしゃがみました。
戸口ではありませんが、
箱の口は、こちらを向いています。
小さな声で、あの口上を、最後まで言いました。
猫は片目をあけて、また、つぶりました。
何も、くださいません。
ということは、わたしが、いたずらをする番です。
しゃがんだまま、ずいぶん考えました。
寝ている方にしていい悪いことは、
ひとつも思いつきませんでした。
うしろで凜ちゃんが、
「猫にまで敬語なの」と言いました。
気がついたら、真琴ちゃんも来ていて、
五人ともが、箱のまわりにいました。
午前は、軽い素振りだけにしました。
土曜は、午後がお休みです。
晩のお皿はロールキャベツで、にんじんのラペが添えてありました。
猫は、暗くなっても箱の中でした。
わたしは今日も、いたずらができませんでした。