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← 夕凪 千鶴 の日記

二行目

引き出しから、便箋を出しました。

妹たちへの、二通目の便箋です。
一行だけ書いて、先週からしまってありました。

今夜、二行目を足しました。

「こちらには、ハロウィンというものがあります。お盆に似ています」

書いてから、読み返しました。

これなら、祖母にも、下の子たちにも、
すぐに分かってもらえると思います。

三行目。

靴のことを、書こうとしました。

水曜の夜、葵ちゃんの部屋の前で、
ひとの靴を、だまってそろえたこと。

そろえました、と書けば、ただの報告です。

でも葵ちゃんは、あれを「いたずら」と呼んで、
一日じゅう、喜んでいました。

いたずらをしました、と書けば、
妹たちが、きっと心配します。

どちらの言葉で書いても、違うものになってしまいます。

ペン先が紙にさわる前に、やめました。

謝らないままのことを、
手紙にも、書かないままにしておきます。

先週出した封筒への返事は、早くても次の水曜です。
この便箋は、それが届いてから、続きを書いて出します。

きょうのサーブは、四十本でした。
打っているうちに、雲が切れました。

晩ごはんは、親子丼でした。

引き出しの中に、二行になった便箋。

Reading Notes 読み解き この日までの日記から

お盆

この日の日記より

お盆に似ていると書けば、家族が知っている行事を使ってハロウィンを伝えられる。千鶴が手紙に足せたのは、その共通の言葉がある話。靴の話には、まだ同じように渡せる言い方がない。

いたずら

この日の日記より

靴をそろえたとだけ書くと、葵が喜んだ部分が落ちる。いたずらをしたと書くと、今度は妹たちが悪いことだと心配しそうになる。どちらもその日の出来事をそのまま届けられず、三行目は書かなかった。

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