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← 久遠寺 凜 の日記

ドア

ローズマリーの束を、ひとつ、カーテンレールから外した。

夜の九時すぎ。

四つのうちの、いちばん端のやつ。

葉はだいぶ丸まったけど、
茎をつまむと、まだ少しやわらかい。

乾ききってない。

それを持って、ドアの前に立った。

あたしの部屋のドア。

先々週、葵が練習を見学させてって来たとき、
断った、あのドア。

めったに開かないの。そういうドアなの。

内側からノブを回して、開けてみた。

廊下。

誰もいない。
明かりが、床に細長く伸びてるだけ。

束を持った手を、ちょっとだけ前に出してみた。

戸口で渡すって、こういう格好?

「……ふん、当然でしょ」

言ってみた。

誰もいないのは当然。
まだ三十一日じゃないんだから。

閉めた。

束を、元の場所に吊るし直した。

Xには、ドアが開くとは限らない、って書いておいた。
嘘じゃないわよ。限らないもの。

きょうの氷のことも書いておく。
曇りが晴れていく日で、
リンクの高い窓が、途中から明るくなった。

ねえ。

ドアって、内側から開けると、
あんなに軽かった?

Reading Notes 読み解き この日までの日記から

戸口で渡す

この日の日記より

束を用意するだけでは、戸口でどう渡すかまでは身体に入っていない。凜は相手のいない廊下へ手を出し、渡す格好と言葉を試した。まだ乾ききらない束を使って、受け渡しのほうも準備している。

内側から

この日の日記より

以前は葵の訪問を断ったドアを、この日は凜が内側から開けた。誰かに開けてと求められた場面ではなく、渡す手つきを試すために自分でノブを回している。最後の「軽かった」は、その一度の開け心地として書かれている。

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