島にあるもの
しゃっ、しゃっ、て、エッジの音だけ。
夜明け前のリンクには、あたし以外、誰もいない。
高い窓はまだ暗くて、氷の白だけが浮いてる。
35分、滑った。
何本跳んだかは、数えてない。
数えないって、決めたの。
朝ごはんの前にラウンジを通ったら、掲示板に紙が一枚。
真琴の字。
本土に頼むなら、きょうの事務室まで、だって。
横で葵が「頼んであるもん」とか騒いでた。
何をよ。
あたしは言ってやった。
「島にあるもので足りるわよ」
だって、ほんとに足りてるもの。
窓辺には、もう四つ、吊るしてあるんだから。
部屋に戻って、カーテンレールの束を見た。
ローズマリー。四つとも、逆さまのまま。
葉の丸まりが、きのうより進んでる。
指でさわると、まだ、ちょっとしっとり。
三十一日までに、乾くかしら。
ただ、仮装のほうは、まだ何も無い。
島にあるもので足りる、って言ったのは、あたし。
足りるはずよ。
足りるのよ。
窓辺の四つの束と、まだ白紙の仮装。