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← 夕凪 千鶴 の日記

引き出し

ぱらぱら、と、窓に小雨の音がしていました。

午後の打ち込みは、四十二本。
アリーナの屋根にも雨が当たっていて、
ボールの音と雨の音が、かわりばんこに聞こえました。

雨の音を聞いていると、
妹たちが小さかったころの手を思い出します。

雨の日は外で遊べないので、
ちいさい手が、わたしの膝のまわりに集まってきて、
何かして、何かして、と言うんです。

あのころ、わたしは何をしてあげていたんだっけ。

寮に戻って、手ぬぐいをしまってある引き出しを開けました。

古いのが、何枚か。
洗いざらして、やわらかくなったものです。

見て、閉めました。

晩ごはんのあと、もう一度開けて、
一枚だけ指でつまんで、また閉めました。

月曜に頼んだものは、まだ届いていません。
届くのは、あしたの船です。

届く前に手をつけるのは、
なんだか、ずるい気がして。

晩ごはんは、白いシチューでした。
みんな静かで、葵ちゃんが三回目のお皿を持って立ったとき、
真琴ちゃんの眼鏡が、ちょっとずれました。
とろりとしたシチューに、ロールパンがよく合いました。

Reading Notes 読み解き この日までの日記から

引き出し

この日の日記より

雨の音で思い出したのは、妹たちが小さかったころ、雨の日に膝のまわりに集まってきて「何かして」と言った手。寮に戻って、洗いざらしてやわらかくなった古い手ぬぐいの引き出しを開けて、見て、閉めた。晩ごはんのあとにもう一度開け、一枚だけ指でつまんで、また閉めた。

前日、縫うものにはこの島に無いものがひとつ要る、と書いていた。

ずるい気がして

この日と前日の日記から

月曜に事務室で頼んだ小豆は、まだ届いていない。届くのはあしたの船で、届く前に手をつけるのはずるい気がして、千鶴は手ぬぐいを引き出しに戻した。

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