足ります
「あんこ」では、ありません。
……と、昼休みに、ちゃんと言えればよかったのですが。
けさの船が遅れたそうで、
きょうは、郵便も荷物も、昼休みにまとめて郵便棚へ並びました。
わたしの棚には、家からの封筒と、
月曜に頼んだ、小豆の袋。
袋には、太い字で「小豆」と書いてありました。
となりで箱を抱えていた葵ちゃんが、それを読んで、
「あんこ!?」と、大きな声で。
「ち、ちがいましゅ……」
そこから先が、出てきませんでした。
凜ちゃんが、中身は当日まで内緒でしょ、と言ってくれて、
葵ちゃんは、両手で口をふさぎました。
船の日なので、きょうは練習をしていません。
夕方、ラウンジに職員さんの掲示が出ました。
十月三十一日、十九時、ハロウィン。かぼちゃのおやつ。
夕食は、鰤の照り焼き。
食べながら、何時から回るかの話になりました。
葵ちゃんは、おやつを食べたらすぐ、と言いました。
わたしは、
「お迎えは、日が暮れてからです。灯りが、あれば……」
と言いかけて、やめました。
お盆なら、迎え火を焚きます。
でも、寄宿舎の廊下で火なんて焚けません。
言っても困らせるだけだと思って。
真琴ちゃんが、消灯から逆算して、二十時から、と決めました。
それから、真琴ちゃんが表の見出しを確かめて、
「一人一つ」には、数え方がふたとおりあったと分かりました。
一部屋に一つか、訪ねてくる四人に一つずつか。
四人に、になりました。
家からの封筒は、まだ開けていません。
寝る前に、ゆっくり読むつもりです。
部屋に戻って、小豆の袋を手のひらにのせました。
ひとつのつもりで頼んだ、ひと袋。
四つに分けても、足ります。