手が先に知る
サーキットの路面に、
薄い雲の影が乗っていた。
走り出して三周目。
ハンドル越しの振動が、
夏のそれより、すこし硬い。
計器の路面温度は
まだ夏の数字を出していたが、
手のほうが先に気づいた。
路面が、冷え始めている。
夏のグリップと秋のグリップは、
べつの生き物だ。
空気圧を半分刻みで見直して、
ブレーキを当てる位置を
ひとつ手前にずらした。
秋の走り方の支度だ。
こういう調整は、嫌いじゃない。
季節が変わる前に、
手のほうを先に変えておく。
そうすれば、季節のほうが
オレに追いつく側になる。
夕食は肉じゃがだった。
じゃがいもは、
煮くずれる直前がいちばんうまい。
今夜のは、ちょうどそこだった。