歩き、と七瀬が言った
水曜。
桟橋の入港。
七瀬が歩きで行くと言った。
オレは車で連れて行くとは言われなかった。
歩き、と限定された。
断らなかった。
速度以外の時間があると、オレの中で認めたことになる。
書類は厚い封筒で来る、と朝の授業中に思い出した。
桟橋で確かめた瞬間、身体が普段より少し硬くなった。
反応があるということは、無関心でないということだ。
父の名前で書かれた紙束を、寮の机の一番下の引き出しにしまった。
読むのは今夜じゃない。
夕方、澪川に排水修理の続きを短く伝えた。
ベアリング、予備を注文してある、
と。
あの女は情報を無駄なく受け取る。
それが楽だ。
信頼と効率は同じ回路の別の出力かもしれない。
夕凪が『いってらっしゃい』と震えない声で言った。
少しだけ、声の温度が変わった気がする。
オレは頷くだけだった。
それでよかった、と思う。