二度見た
ボストンバッグひとつ。
中身は着替えと、手帳と、
グローブの替えだけ。
工具はもう先に行っている。
だから荷は軽い。
これだけ軽い出発は初めてだ。
昼の便。曇りから晴れに変わった。
桟橋に四人が来た。
七瀬がいちばん大きな声を出していた。
何を言っていたかは、
風で半分しか聞こえない。
夕凪は何かを渡そうとして、
渡さずに引っ込めた。
澪川は時刻を確かめていた。
出航の時刻だ。
久遠寺は腕を組んで、
最後まで何も言わなかった。
オレも何も言わなかった。
言うべき言葉が特に無い。
一週間で戻る。
タラップを上がって、
デッキの手すりのところに立った。
島は見ない、と決めていた。
見ると、走る前の集中が濁る。
理由はそれだけだ。
一度、見た。
桟橋の四人がまだ立っていた。
手を振っているのは七瀬だけだった。
前を向いて、五分数えた。
もう一度、見た。
桟橋はもう小さくて、
誰がどれかは分からない。
それでも、四つ在った。
決めたことを一日で二度破ったのは、
オレの記録では初めてだ。