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← 七瀬 葵 の日記

一杯目の数字

円盤って、どうして
葵の言うこと聞いてくれないんだろう。

きょうは円盤を十投。
距離は、測らない日。

くるって回って、手から離すと、
円盤はいつも、葵が思ったのより
ちょっとだけ手前に落ちる。

測らない日なのに、
「ちょっと手前」は分かっちゃうんだよね。

曇ってた空が、十投目のころに晴れてきて、
芝生の上の円盤が、きらってした。

夕ごはんは、クリームシチュー。

いっただきまぁ〜す!って言って、
ひとくち食べたところで、
テーブルのまんなかに、
白いキッチンタイマーがあるのに気づいた。

ルナっぴのまえ。

まこるんが「いただきます」って言って
お箸を取ったら、
ルナっぴが「2.1」ってぼそっと言って、
ノートになにか書いた。

まこるんは「……いまの、私ですか?」って固まってた。

葵はそのあいだも、ずっとシチューを食べてて、
一杯目のお皿が空っぽになったとき、
ピッ、って音がした。

ルナっぴが、タイマーをこっちに向けた。

4:50。

「七瀬。一杯目」

ふぁっ⁉ 計ってたの⁉

びっくりしたけど、
数字を見たら、なんか燃えてきちゃった。

四分五十秒って、ぜんぜん速くない。
葵、もっといける。

「あした、四分台前半ね!」

ってルナっぴに言ったら、
ルナっぴはなにも言わないで、
ノートにまた一行、書いてた。

おかわりのシチューは、
たぶん、計られてない。

たぶん。

Reading Notes 読み解き この日までの日記から

ちょっと手前

この日の葵の日記より

距離を測らなくても、思ったところまで届かなかった感触は残る。「ちょっと手前」は記録の数字ではなく、投げる前に思った場所と、落ちた場所との差。測らない日にも、葵は円盤の行き先を比べている。

四分台前半

この日の葵とルナの日記より

ルナが見せたのは一杯目にかかった時間で、競争の誘いはなかった。そこへ葵が自分で次の目標を足した。食べ終わった記録を見た途端、もう「もっといける」と挑む数字になっている。

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