剥がさない
午後二時。
曇りで、路面の温度が上がらない。
計時器は、きのう直した。
表示板には、養生テープを貼ったままだ。
15周、走った。
ラインを越えるたびに、器械は時刻を拾っている。
数字は、テープの下で、毎周、変わっているはずだ。
見なかった。
見ないで走るのは、先週と同じだ。
違うのは、いまは、見ようと思えば見られること。
無いものを見ないのは、簡単だ。
在るものを見ないのは、少し、違う。
何周目かで、後ろが、きれいに流れた。
手は、いまのは速い、と言った。
答えは、テープの下にある。
走り終えて、車を止めた。
表示板の前に立った。
テープの端に、指をかけた。
爪が、角を少し起こした。
剥がさなかった。
角を、親指で押さえて、戻した。
夜は鯖の味噌煮。
食後に、久遠寺がラウンジで茶を淹れた。
答え合わせは、今日じゃない。